Blog on Duty of Care 海外における企業の安全配慮義務

発生対応では遅い! ~リスク認識・準備することから始まる出張者のリスク対策と企業の安全配慮義務~【3】出張者の安全対策

shin03.jpg

本人のナレッジや経験値任せの海外出張者安全対策では、ヌケ・モレが発生し、虫食い対応の不十分なリスク管理となる。情報セキュリティ対策で言えば、個々人が自由気ままに情報セキュリティ対策を実地するようなものである。組織的なリスク管理の要点として今回は2点紹介させていただく。リスクベースの出張承認と、安全対策研修である。

1.リスクベースの出張承認(Risk based travel approvel)

その意味するところは、渡航先や渡航者固有のリスクに応じた出張対策を行うことにある。多くの日本企業では、程度の差こそあれ出張申請・承認の仕組みがあるが、渡航目的や移動手段・宿泊先、連絡先、関連するコストについてのみ記載されており、「リスク管理」の視点が抜けていることが多い。

たとえば同じインドであっても、ムンバイやデリーと、分離独立過激派がテロを起こしているアッサム州ではリスクの態様は大きく異なり、被害に遭う可能性や巻き込まれた場合のインパクトも大きく異なる。更に、何度もハイ・リスク地域に渡航し誘拐対策の研修も受けた出張者と、出迎え者がいるとはいえ初めてインドに出張する女性出張者では、リスク・プロファイルも大きく異なる。

このように、渡航先のリスクの大小や、渡航者のリスク・プロファイルにより、出張にあたって事前の承認を義務付けたり、何らかの事前研修を課したり、また、出張毎にセキュリティブリーフィングを受けることを義務付けたり、というように、一定のルールをフレームワークとして定めることで、組織的な対応によるリスク低減が可能となる。

また、たとえリスク管理担当者に人事異動があったとしても、フレームワークが仕組みとして機能するため、一担当者の個人的なナレッジに依存せず、また、一定レベルの説明責任を果たすことにも繋がる。

「行くか」・「行かないか」、「危険か」・「危険じゃないか」という二者択一の視点ではなく、「どうすれば安全確度を高めながら(新興市場に)優秀な人材を送り込めるのか?」という視点で、事業推進を後押しするためのリスク管理の仕組み構築が肝要である。

2.事前研修

海外においては「自分の身は自分で守る」が基本とされており、実際、海外渡航中は、何か事件・事故が発生しても、究極のところ自分の身は自分で守らねばならない。 しかし、それは身を守るための手段や方法を教えた上で、という前提条件が必要だ。

海外出張時の安全対策を個人が確実に実践するには、リスクを知り、予防策を知り、それでも巻き込まれてしまった場合の対応策を知ることが必要である。企業としてはその為の手段と機会を提供することが、安全配慮義務の遂行に繋がる。有効な方策としてはやはりトレーニングがあげられる。先に見たように、いざ出張となると多忙で渡航先のリスクを調べるのは二の次になりがちである。海外渡航時の健康と安全は、円滑な出張の必要条件であるにもかかわらずないがしろにされがちで、「これを読んでおいてください」では後回しにされてしまう。やはり一定レベルの強制力を持って予防策や対応策を勉強する時間を作り出すことが有効だ。

先進的な取り組みの企業では、コンプライアンス対策と同じレベルで海外渡航者全員に年1回の海外リスクに関する研修受講を義務付けたり、ハイ・リスク国の駐在・出張者には渡航先別の教育を義務付けている。Eラーニング等のツールを活用することで、受講状況を管理しやすくし、管理側の負担を小さくすることも先進企業では行われている。女性社員には女性出張者に特有のリスクとその対策を指導することで、「知っていれば防げる」被害を極力無くす努力が功を奏する。

たとえば、ホテルの部屋番号や携帯電話番号は出張中も個人情報として第三者には秘匿すべきだが、インド出張中にホテル経由で手配した高級ハイヤーの運転手につい部屋番号を聞かれたばかりに教えてしまったことで、部屋に脅迫電話が掛かってきたり見知らぬ者がフロントの使いと偽って部屋を訪れるといったことも発生する。余談ではあるが、どんな高級ホテルでも、部屋のドアの外は外出時と同じパブリックスペースである、と捉えるべきであり、特に女性出張者には、部屋に滞在する際もアラーム機能付きのドアストッパーの利用をお勧めする。

また、バンコクではアフターファイブのバーで、トイレに席を外している間にドリンクに強力な睡眠薬を入れられてしまい、身ぐるみはがされ、気づいた時には病院のベッドの上で、金銭・パスポートに加え会社PCや書類一式も盗まれてしまったという出張者の事例も時折発生している。バーでは、目を離した自分のドリンクは口をつけずに新たに注文する、夜の飲食に向かう前に、鞄や貴重品はホテルに置く、といった基本のキを知って実践していれば防げる事例であるが、こういった「軽」犯罪事案は後を絶たない。

また、対応を誤れば被害は拡大するため、運悪く被害に遭ったり遭いそうになった場合にどのように対応すべきかを知っておくことは被害最小化の点で極めて重要である。


事件対応モデル(受動的対策)からリスク管理モデル(能動的対策)へ


日本企業は、業界を問わず、成長機会を求めて海外市場の取り込みに動いており、それに伴って生まれ育った母国の外で業務を行う従業員の数は増えるものと考えられる。ビジネスの在り方がグローバル化し、経営の在り方もグローバル対応する中で、海外派遣者の安全対策は未だグローバル水準のそれとはなっておらず、事件が発生してから対応を始める、という受身対応に終始している企業も多い。

しかしながら業務の現場では日々出張者が目に見えない各種リスクに囲まれながら結果を出すことを求められており、個々人に掛かるリスク対応の負担は高まっている。 今後は組織として能動的にリスクを見出し、予防・回避するための策を実行し、ROP(Return on Prevention)を最大化しながら、従業員の安全確度を高めることが、ひいては事業の成功確度の向上に繋がるものと確信している。 このブログ記事がその一助になれば幸いである。

(シンガポール日本商工会議所10月号に寄稿した文章より)

【1】海外出張と出張者の認識
【2】海外出張に伴うリスク




Written by 福間 芳朗

インターナショナルSOS/コントロール・リスクス セキュリティディレクター
日本・韓国地域責任者。渡航先である特定国・都市・地域のリスクに関するアドバイスから、緊急時には現地での国外退避オペレーションを担当。駐在・出張者を対象としたリスク回避に関する研修の講師や、緊急避難計画コンサルティングも行う。トラベルセキュリティーサービス担当以前は、日本企業の欧州・アフリカ進出コンサルティングや、外資系企業にて人材サービスや日本進出コンサルティングに携わる。また、フランス軍に5年間所属し旧ユーゴスラビアや中央アフリカでのオペレーションに参加した経験あり。

インターナショナルSOSは、海外で活躍される企業や
その社員の方々に医療とセキュリティのアシスタンスサービスを
提供しています。詳細は下記webサイトをご覧ください。
http://www.internationalsos.co.jp/

Blog on Duty of Care ~ 海外における企業の安全配慮義務ブログ ~ Duty of Careとは? Blog on Duty of Care