Blog on Duty of Care 海外における企業の安全配慮義務

【第7回勉強会】安全配慮義務(Duty of Care)の目線・観点で考える

 COVID-19の感染拡大をきっかけに、会員企業の方から会員同士のコミュニケーションの「場」を提供していただけないかというお問合せを多数受けておりました。そこで、弊社が主体となり、毎月ひとつの安全配慮義務(以下Duty of Care)のテーマをとりあげ、それに関連した勉強会を開催させていただくことになりました。
 2021年5月20日に行われた第7回勉強会は、今までの勉強会のFeedbackから、安全管理担当者様同士の情報交換の場がもっと欲しかったというご意見より、情報交換の場として「議題1:アシスタンス活用を語ろう」「議題2:貴社の考えるリスクとは、そのリスク対応をどうしていますか?」の2つの議題で、各ルームに分かれディスカッション主体の勉強会を開催いたしました。


【議題1】アシスタンス活用を語ろう

 このルームでは大きく4つの問題意識が議論されました。
 
●問題意識1:ひとり海外勤務者のDuty of Careはどうすべきか?

 まず初めに、アシスタンセンターの活用などの周知方法と、それらを推進する安全管理の体制をどう考えるかなどの議論が行われました。アシスタンスセンターの活用方法などの周知方法は、第3回勉強会で「安全配慮義務(Duty of Care)を果たすためのインターナショナルSOSサービスの周知方法https://www.internationalsos.co.jp/blog/2021/02/3duty-of-caresos.html」として議論されていたこともありましたが、今回特に議論になったのは、ひとり海外勤務者のDuty of Careです。
 ひとり海外勤務者の場合、その海外勤務者にアシスタンスセンターに電話できないほどの何かがあった場合などに、どのように対処するかは重要な問題になります。具体的には、ご本人が万が一倒れた際に、周りの信頼のおける方々からも、アシスタンスセンターへお電話を頂ける仕組み・体制作りが肝要です。例えば、現地法人の人事・総務担当者にも本プログラム利用方法の周知、海外の自宅等に出入りのある家政婦の方への周知、社用車ドライバーがいる方はドライバーにも周知など、万が一に備えた議論となりました。

●問題意識2:インドから退避せず自宅籠城した方がリスクは低い?

 最近特にCOVID-19の感染拡大が深刻になっているインドについて、海外勤務者を退避させるか否かの判断についても活発な議論が行われました。ある企業の場合、退避検討はしたものの、PCRテストを受けるために混雑した場所に行く事や、退避までの移動工程の中で、さらなる感染リスクを高めるより、自宅待機を望まれた海外勤務者の意見を重視し、本社側も自宅籠城(working from home)でモニタリングを徹底する方法が採用されました。自宅籠城という手段も考察すべきだと参考になったようです。

●問題意識3:万が一に備え、緊急退避経路などのプロシージャーを決めておくことは重要?

 ガザからのミサイルが降り注ぐ中で、イスラエルに出張者がいる企業から、万が一の対策として、イスラエルから退避するための退避経路について、あらはじめアシスタンスセンターのセキュリティチームと相談し、事前準備をしたことをご報告いただきました。何か問題が起きる前に準備することとして、具体的なプロシージャ―を明確にしておくことは非常に重要です。イスラエルの場合、空路が難しければ、西岸のパレスチナ自治区を通過せず、ヨルダンのアンマンに抜けるルートもありますから、それらを事前に把握し、退避させる海外勤務者や出張者のパスポートなどの情報をアシスタンスセンターと共有しておくことは、リスクの大幅な低減につながります。

●問題意識4:日本で馴染みのないイスラームの習慣などの把握は必要?

 米中デカップリングのビジネスリスクの低減を考えると、インド市場はもちろんですが、ASEANなどのイスラーム諸国へのビジネス拡大が予測される中、イスラームの習慣について正しい知識を理解しておく必要があります。しかし、知識としてイスラームの習慣を把握することができたとしても、刻々と変化のある現地の治安情報などを把握する手段がないため、ラマダン前後や祝祭日時の治安情勢等を、アシスタンスセンターにタイムリーに質問するようにしている企業がありました。リスクがクライシスとなる前に予測しておくことと、クライシスのプロシージャーを決めておくこと、これらは「備えあれば患いなし」(Duty of Care)に直結する重要なことです。

 また、各国によって違うワクチン接種の状況についての本社側の準備などの質問がありましたが、残念ながら時間不足となってしまいましたので、各営業と議論を継続していただければと思います。今後はテーマを絞り込み、さらに深堀できればと思います。


【議題2】 貴社の考えるリスクとは、そのリスク対応をどうしていますか?

 このルームでは大きく2つの問題意識が議論されました。

●問題意識5:Withコロナ、ポストコロナにおける出張・海外勤務可否などのトリガーをどう判断するか?

 情報収集方法として、現地法人、外務省、インターナショナルSOSから得て、それらをまとめて出張・海外勤務の再開トリガーとしている。トリガーの基準については様々な基準があり、入院数、ベッド数、占有率、外務省レベル等で判断している。安全管理(渡航面)については、社内にワーキンググループを作成し、情報の一元化を実施している。昨年より、COVID-19の影響から、出張者数は減っているが、ビジネス上どうしても行かなければ行けない時は担当者へリスクの説明、担当役員の承認を得るなどリスク把握を行い実施している。など各社の判断方法が議論されましたが、専用の渡航判定基準マトリックスを作成し判定の基準にして企業もあり、その組織に普遍的な基準を決めていることが特に印象に残りました。

 つまり、コロナ禍の各国対応と同じく「属人的な判断が優先する国」「科学的な判断が優先する国」があるように、今回の議論でも情報収集の手段は外務省やインターナショナルSOSからと共通していますが、最終的な判断が役員などの属人で行うのか、判定基準マトリックスをベースにし、なるべく属人性を排除しているかの違いがありました。

●問題意識6:リモートワークが進む中で、今後の地域統括機能・本社機能はどうなっていくのか

 COVID-19によって、地域統括会社とのコミュニケーションは増えたが、役割分担は明確化しておらず、希望としては「グローカル*」で行きたいという考える企業がありました。しかし、本社機能が何もないでは困るので、その役割分担、権限移譲、権限移譲は今後の課題とのことです。

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*グローカル:グローバル(Global:地球規模の、世界規模の)とローカル(Local:地方の、地域的な)を掛け合わせた造語で、「地球規模の視野で考え、地域視点で行動する(Think globally, act locally)」という考え方。

 グローカルという考え方は、「グローバルという市場はない」、つまり、グローバル市場とはローカルが重なり合って集まったものであり、企業によっては「Local is Global」「Global is Local」と表現する企業もあります。本社で方針を決めLocalに浸透させる方法論では限界があり、各地域で違うそれぞれの事情を加味した方法論をLocalが考え、その地域にインプリメンテーションする考え方です。

 このことは、どの企業も問題意識を強くお持ちで、勉強会終了後も議論は続きました。

 「グローカル」「Local is Global」「Global is Local」をDuty of Careで考えると、リスクマネジメントとしては「本社と地域子会社」の役割分担は比較的実現しやすいと思います。例えば、弊社の新サービスである「ワークフォース・レジリエンス」には、標準で本社と地域各社が権限分散する仕組みが「サイトモニター」として標準搭載されています。またアラートメールなどは、登録した地域子会社の拠点住所毎に集約して表示され、その地域会社毎のリスクを把握することが容易になっています。さらに、本社から地域子会社へのガバナンスとしてリスクに対する対処のシナリオ(プロシージャ―)を構築することも可能な仕組みとなっています。
 しかし、このような仕組みを活用しなくとも、事前に本社と地域各社の役割分担を決めていけば、それを確実に運用することで必然的にリスクマネジメントは実現可能です。

 問題は、クライシスマネジメントでの対応です。

 例えば、現在20名の方がリスクの高まっている国に出張中だとします。10名は日本から、5名はアメリカ、5名がEUからの出張者の場合、リスクが高まり、緊急退避などを有するクライシスマネジメントにフェーズが移ると、20名全員を一度に緊急退避させてなけばならなくなります。そのときは逆に地域子会社の判断をプロシージャ―に入れるとタイムラグや判断の違いが起きてしまいます。
 したがって、リスクマネジメントは地域分散、クライシスマネジメントは本社主体に、など「リスク」と「クライシス」を分けてプロシージャーデザインをする必要があるのではないかと勉強会後も議論は続きました。

※クライシスマネジメントとリスクマネジメントの違い

【クライシスマネジメント】は、事業の目標達成や事業継続を脅かすような危機が発生した際に、その影響を最小限にとどめると共に、危機的状況からいち早く出し、正常状態への回復を図るための管理活動を指す。

【リスクマネジメント】は、近い将来から遠い将来まで、これから発生するかもしれないリスク(今後発生し得る不確定事象)を洗い出し、整理し、それらのリスクを回避するための管理活動を指す。

例えば、COVID-19が起きた当初、「どうしたら良いのか」「この国の感染状態はどうなのか」「今日の死者は何人なのか」「海外勤務者を帰国させるタイミングはいつにしたら良いのか」「帰国させられないのか」「これらの判断は誰がどう行うのか」など、日本中のグローバル企業はCOVID-19というクライシスに翻弄されていました。この段階で海外での火山爆発、地震、テロなどが起きたとしたら、さらに混乱を極めることになったと思います。
 今まで起きたことないレベルの事象とは、絶対的なものでなく、その企業にとっては相対的なものです。

 ある企業の海外出張中の従業員がICUに入ってしまったことがあります。その段階で近隣の医療水準の高い国に医療搬送するか、現在の病院に留まるかの判断があり、病院に留まることになりました。そこで日本側から現地へ誰が行くのか、社長なのか、事業部長なのか、総務部長なのかなど、何度も対応会議があり、3日後にその企業のDuty of Careの管轄責任者の総務部長が現地へ行くことが決断されました。

 この企業にとって、海外出張中の従業員がICUに入る、とういうことは今まで経験がなく、その対応に時間がかかってしまったわけです。つまり、危機が発生したときに、その影響を最小限にとどめ、危機に対処するクライシスマネジメントがまったくなかったのです。その後、その企業は海外出張許可基準を策定し、これから発生するかも知れないリスクを回避するためのリスクマネジメントを実践しました。


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 今回の勉強会は、参加各社が持っている6つの問題意識を通じて議論を行いましたが、問題意識6「リモートワークが進む中で、今後の地域統括機能・本社機能はどうなっていくのか」のように、社内を含め各営業とも継続して議論していただき、より良きDuty of Care体制を全体最適構築していただければと思います。
 次回のご参加をお待ちしております。


【参考】安全配慮義務(Duty of Care)を果たすとは何か

    ① 物的、人的環境の整備
    KPI 1:事業所・居住場所等の選定、セキュリティ体制の確認
    KPI 2:社用車の要否及び選定
    KPI 3:警備員、運転手の配置
    KPI 4:予防接種その他の医療のサポートの提供
    KPI 5:法律、コンプライアンス等のサポートの提供

    ② 安全教育の徹底(赴任前トレーニング等)
    KPI 6:政情不安等の問題
    KPI 7:治安・安全情報
    KPI 8:医療・衛生環境についての情報
    KPI 9:ビジネス環境、法的リスク等に関する情報
    KPI 10:危機状況の対応方法

    ③ 問題が生じた場合の対応体制の整備
    KPI 11:本社等への連絡、相談体制
    KPI 12:家族への連絡
    KPI 13:適切な医療機関等との連携
    KPI 14:警察その他の関係当局、大使館等との連携
    KPI 15:航空機を含む交通手段の手配、現地からの緊急出国、帰国等の手配
    KPI 16:外部専門家等との連携


※勉強会で共有された資料「Duty of Careから考える、コロナ禍のアシスタンスサービス」(PDF)をご希望のお客様は、お手数をお掛けしますが、下記リンクよりリクエストフォームにご記入下さい。後日弊社営業担当より資料を送付させていただきます。
https://my.internationalsos.com/LP=7489


「グローバル人材を守る健康と安全の提言書」
(ベーカー&マッケンジー法律事務所とInternational SOS Foundation共著 2015年11月作成)
Employer's Duty of Care in Japan Positioning Paper
(English) Published by the Baker McKenzie and the International SOS Foundation. Outlines the Duty of Care for businesses operating in Japan.
https://www.internationalsosfoundation.org/apac

インターナショナルSOSは、海外で活躍される企業や
その社員の方々に医療とセキュリティのアシスタンスサービスを
提供しています。詳細は下記webサイトをご覧ください。
http://www.internationalsos.co.jp/

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