Blog on Duty of Care 海外における企業の安全配慮義務

【第12回勉強会】外国人従業員の傷病と受診についての課題

 COVID-19の感染拡大により未曽有の事態の幕開けとなった2020年をきっかけに、インターナショナルSOSでは会員企業様同士のコミュニケーションを目的として、定期的に勉強会を開催しております。

今回の勉強会(2021年10月27日開催)は、「外国人従業員の傷病と受診についての課題」(心身両面(メンタルケア含む)からの外国人従業員の健康・安全・衛生)と題し、今後グローバル企業にとり、避けて通れない外国人従業員の健康・安全・衛生を考察してみたいと思います。

 まずは、営業の田中より、外国人労働者にまつわる法的な問題について、日本の現状を報告します。ご存知のように、日本は単一民族(もともとは、縄文人が弥生人という大陸の外国人を受け入れ混血していった)の島国であることから外国人の受け入れに馴れている欧米諸国とは制度面でかなり遅れています。

1、 外国人労働者を法的観点から考えると

外国人労働者を法的観点から考えると、日本では以下の法律により守られています。しかし、これらの法律だけでなく、例えば、外国人労働者が自ら住居を探そうとすると、Japanese Onlyの不動産がまだまだ多く、それを不服として解決するためには、民事訴訟を起こすしかない状況なのです。

【労働基準法第3条】使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

【労働者派遣法第27条】労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない。

【職業安定法第3条】何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であることと等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取り扱いを受けることがない。

【労働組合法5条2項4号】何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われない。

【参考】【第10回勉強会】「ESGから考えるDuty of Care」より
https://www.internationalsos.co.jp/blog/2021/08/10esg-duty-of-care.html



2、国内人権機関という「仕組み」から考えると

 法整備の進んでいない日本では人権問題は民事訴訟に訴えるしかないため、日弁連は他のOECD加盟国などでも採用している「個人通報制度」や「国内人権機関」の設立を提唱しています。日弁連の提唱を受け入れるかどうかは、「司法権の独立」(最高裁の判決に対し、さらに国連の自由権持薬委員会などが条約上違反の判断をすることは好ましくない)という観点から「検討中」なのが日本のステータスです。

 しかし、民間で、外国人の労働者の問題を仲裁する救済システムとしての組織(国内人権機関)の設立が検討されています。このような仕組みがあると、外国人労働者の労働問題を人権アプリなどで通報する仕組みができ、その機関が行政や立法機関に立法を促す、さらに企業に改善を求めることが可能になります。

【参考】国内人権機関とは
 日本において、人権侵害に対する救済制度として、法務省の人権擁護制度、裁判制度、弁護士会の人権救済申立制度等が存在する。しかし、法務省の人権擁護制度は、法務省に設置された機関であって、政府からの独立性がなく、人権救済を定めた法律も存在しないため、公権力による権利侵害に対して、十分な救済力を有しているとは言えない。また、裁判制度は、救済は主として金銭賠償であり、人権救済の抜本的な解決に適しているとは言いがたい。そして、弁護士会の救済制度申立制度は、公権力に対して勧告等を行うことができるが、警察等の公権力が調査に協力しない場合が少なくなく、有効な人権救済機関として活動できているとは言いがたい。そのため、公権力から独立した権限を有する人権救済機関の設立が国連及び諸外国から求められており、その人権救済機関が国内人権機関である。
(「国際水準の人権保障システムを日本に(明石書店)」より)



3、外国人従業員の傷病と受診についての課題

 ここからは、グローバルアシスタンスネットワーク(GAN)パートナーシップディベロップメントマネージャーである稲垣潔からお話しさせていただきます。稲垣のミッションは、日本にいる外国人労働者(海外のグローバル企業の従業員で、日本に赴任・出張している従業員)にインターナショナルSOSが紹介する病院などとのパートナシップとのリレーションを構築することになりますので、同様に日本企業に勤務する外国人労働者に対し紹介する病院等に対しても知見を有しています。

●国内で就労する外国人とは

 国内で就労する外国人とは、以下のようなタイプに分類されます。
 一方、これら以外に、労働力需給調整の手段や低賃金労働力を本来の目的とするものではない技能実習制度で労働力となっている外国人もおり、多くの人権上の問題が指摘されています。

1)赴任者(主に外国企業の国内現地法人や赴任先事務所)
   欧米系企業多い。東京都心部を中心に主要大都市に勤務・居住
   本国本社の待遇・福利厚生・保険等が適用されることが多い
   在住形態は、単身・家族帯同

2)国内採用外国人従業員(日本企業・外国企業ローカルハイヤー)
   東京を含む全国主要都市から製造業の多い地方中小都市まで広い地域に勤務・居住
   正社員・契約社員・アルバイトなど雇用形態によるが、国内事業所による待遇や福利厚生
   在住形態は、単身・家族帯同

3)海外からの呼寄せ・短期滞在者
   海外現地法人からの出張扱いも。主に技術研修目的など
   ベトナムなどアジア諸国から多い
   地方中小都市に勤務・滞在多い
   滞在形態は、単身が多い

●就業外国人の健康・傷病に関わる問題

 就業外国人の健康・傷病に関して以下のような問題が挙げられます。

・急性期疾患・慢性疾患
・外傷 熱傷など就業中の事故、居住地での事故・犯罪、休暇中の事故
・メンタルケース 特にCOVID-19影響下で増大
・死亡
・外来・入院など受診へのアクセスの問題
・日常の健康管理、健診 

●各種属性や就業形態等による傷病の傾向

 各種属性や就業形態等による傷病の傾向は、ケガや疾病だけでなく、DVや暴力(パワハラ)、メンタルのケースなどもあることなどは要注意です。
 さらに、属性・就業形態に関わらず、単身者の方が生活習慣病発症・悪化のリスクが高い、という傾向があります。

・赴任者 
 日常的な軽度の内科・外科・眼科・皮膚疾患等。がん、脳外・心外系急性疾患
 休暇中の事故、交通外傷
 メンタルケース
 帯同家族(配偶者・子供)の疾患。精神疾患、DVなど

・国内採用外国人従業員 
 日常的な軽度の内科・外科・眼科・皮膚疾患等。がん、脳外・心外系急性疾患
 工場など職場での外傷、熱傷、化学熱傷など。交通外傷
 メンタルケース
 帯同家族(配偶者・子供)の疾患。精神疾患など

・海外からの呼寄せ・短期滞在
 日常的な軽度の内科・外科・眼科・皮膚疾患等
 工場など職場での外傷、熱傷、化学熱傷、交通外傷、暴力

●従業員や家族が医療機関にかかりたいとき

 従業員や家族が医療機関にかかりたいときには、以下のような問題がありますが、日本語問診票記入から診察・検査、精算、院外薬局まで、不便を経験するケースが多くあります。

・どこに受診したらよいかわからない。家族が受診するときは?夜間や休日は?
・言語の問題:問診票記入から診察・検査、精算、院外薬局まで
・来院時、日本語対応者の同行を求められることも多い
・医療文化、治療方法、保険システムの違い
・医療費精算 健保の有無、自費診療、支払方法
・OTCの購入も難しい 特にマイナー言語の帯同家族

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●医療機関側の不安・問題は

 外国人を診療する医療機関側の不安・問題は、以下のようなものがありますが、やはり言語と未集金リスクが大きいようです。また、海外に帰任してから、日本の医療機関に対して訴訟を起こす、というような訴訟リスクも存在します。

・言葉の問題 多国籍化・多言語化による問題。 誤診や間違った服用にも
・未集金リスク 全国の多くの病院が、外国人患者受入れで「未収金}を課題に
・採算性
・感染症リスク
・検査・治療方針について希望と理解でのギャップ
・文化・習慣の違い 病棟で起こりやすい。
・訴訟リスク
・健保の悪用 
・現場の負荷 

●外国人患者対応への医療機関の取組み方

 外国人患者対応への医療機関の取組み方は、以下のように大別されますが、可能な限り2)3)の医療機関に紹介することが、従業員や家族が安心してスムーズに疾病やケガに対応することにつながります。このような視点から、インターナショナルSOSでは日本の医療機関をパートナーとしています。

1) 特別な取組みはない
    来院したら医事課や医療連携室、医師で何とか対応
2) 円滑な急性期外国人受入れ態勢整備
    受入れ調整や受診支援のため専門窓口を設置する施設も
3) 積極的に外国人患者受入れ態勢整備(メディカルツーリズム受入れなど)
    外国人患者専門窓口を設置。多くはJCI認証やJMIP認証など国際診療の認証取得。
  (COVID-19影響下で、ドックや先進医療のツーリズムは壊滅してしまったが)

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【参考】JCI認証とJMIP認証について
 https://www.jointcommissioninternational.org/ (JCI認証)
 JCI(Joint Commission International)は、アメリカの医療分野における第三者評価機関「The Joint Commission」の国際部門として1994年に設立された非営利組織。「患者安全」と「医療の質向上」を継続的に促進する組織を醸成することを目的とし、全世界で1000以上の施設、日本国内では、31施設が取得している医療機能評価の国際基準。(2021年2月15日現在)
 http://jmip.jme.or.jp/ (JMIP認証)
 JMIP(Japan Medical Service Accreditation for International Patients)とは、訪日あるいは在留の外国人の方々が安心・安全に日本の医療サービスを享受できるように、多言語による診療案内や、異文化・宗教に配慮した対応など、外国人患者の円滑な受入れ体制を一般社団法人 日本医療教育財団が中立・公平な立場で評価する認証制度。

また、外国人患者対応への医療機関は、以下のように対応を準備しているケースが一般的です。

・言語:問診表、翻訳・通訳アプリ、通訳業者、外国語対応職員配置など
・医療費:カード払い対応、外国保険対応、など。
・その他:宗教や習慣・病院食、暴力・苦情、日本人患者や院内職員の不快感、個人情報、訴訟リスク、感染症、国内転院医療連携、本国転院・死亡時、などへの対応

●宗教・習慣対応の例

 特に宗教・習慣対応の例としてイスラームの例を以下の列挙してみました。デカップリングが進む中、東南アジア諸国にリスク分散するグローバル企業が増加していますが、東南アジア諸国の総人口約6億人のうちの50%はムスリムです。
したがって、今後のグローバルビジネスを考える上において、イスラム教、イスラームの習慣を理解することは必須になるでしょう。
しかし、食事や祈祷などは入院の場合に特に問題になりますし、配慮のある病院でも対応は限られ、患者家族や同僚によるケアが必要になります。場合によっては本国へ帰って治療の検討も必要になります。

・イスラム教国からの短期滞在・居住者
 中東諸国以外にも、インドネシア、マレーシア、パキスタン、旧ソ連スタン諸国、中国(北西部)
 当該国では少数派ながらミャンマー、ネパール、インド、ロシアなどにも
・同じ性別の医師:女性患者には女医のみ
・病院食の問題:ハラル対応-「許されたもの、合法」を意味。院内では不可
・投薬の問題 
・祈祷への配慮 
・死亡時の院内処置



●死亡時

 外国人従業員が亡くなられた場合、本国への遺体搬送を含め、各種手続きなどの対応が必要になります。

・病死
・事故死・自死・殺害
・関係当局への届出・手続き・手配
・会社側担当者も対応に追われる
・遺体の本国送還・国内火葬
・死亡原因や状況により遺族への補償の問題

●外国人に利用しやすい医療機関

 外国人に利用しやすい医療機関は、ネットでの医療機関検索サイトでも調べられますが、情報精度・信憑性に問題もあります。インターナショナルSOSでは直接コンタクトや訪問し、医療機関の評価を行っています。

・外来クリニック
 一般的に、日常的なプライマリケアでは大きな病院より受診しやすく便利
 英・中など言語対応の院長やスタッフがいるクリニックは、受診しやすいところが多い

 

・病院
 ※紹介状が無い場合や緊急性がない場合は受入れが難しい病院も
 外国人診療についての基準認証を取得する施設も (JCI認証、JMIP認証)
 JCI認証など認定取得病院の一部にイスラム教など、限定的に宗教対応

【参考】【第8回勉強会】本当にその病院で良いですか?
(インターナショナルSOSの病院評価基準) 
 https://www.internationalsos.co.jp/blog/2021/06/8.html

●医療機関の地域的な違い

 外国人対応の医療機関は大都市圏と地方により、地域的な違いがかなりあります。

・一部大都市(特に東京都心)
 東京都心中央部(港区・渋谷区・新宿区・中央区など)のみ医療機関の選択肢も一極集中
 東京都心以外は、都下、大阪、横浜、名古屋、札幌など大都市でも選択肢は限定

・埼玉、栃木、茨城、滋賀など、東京・大阪などに近い地方中小都市
 生産・研究開発拠点を置き、勤務・在住も多い。大都市より選択肢が限られる
 工場勤務者の多い東海地方太平洋側など、在住外国人特性への対応も

・地方遠隔地
 全般的に遠隔地は難しい
 高度急性期対応・3次救急対応がその地では受けられない地域も多い
 多くは、外国人に慣れていない。対応のノウハウも無い

●COVID-19影響下の外国人対応医療機関への影響

 COVID-19により、外国人インバウンドや一般外来の減少等が、外国人対応医療機関の経営にも影響を与えています。経営方針を変更した医療機関も出てきているので、外国人対応の医療機関の情報は定期的な情報の更新が必要になります。

・都心部外来クリニック
 外来や健診の減少による減収
 オンライン診療扱いの増加
 自費PCR検査取扱いの増加

・主要病院
 COVID-19対応病院での院内ひっ迫
 全般的経営状況への影響。経営方針転換

 

●外国人を雇用する企業の取組み例

 外国人を雇用する企業の取組み例は以下に列挙しますが、昨今はこれにプラスし、サプライチェーンに対してモニタリング監査を行う必要が高まっています。特に外国人労働者における健康・安全の問題は「国内人権機関」などへの通報につながる可能性も高く、「人権デュー・デリジェンス」として非常に重要になってきます。

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・外国人従業員対応の部門や担当者設置
・受診医療機関リスト 定期的アップデート必要。そのときの傷病に適するかどうかが問題。自分の判断によって行かせることの問題。リストを渡しっ放しではなく、やはり受診に際し相談できることが望ましい。
・勤務地や居住地以外の地方へ出張時や旅行時の傷病発生時の対応
・医療費処理(健保・労災・外国保険・事業費・自腹)
・職場でのファーストエイドトレーニングの実施
・健康管理システム(定期健診、予防接種、個別健康指導、健康管理勉強会)
・家庭用・オフィス用外国語対応の救急キットの配置  帯同家族に便利。 
 軽い風邪症状や日常的な頭痛、腹痛などはすぐ受診ではなく、使いやすいOTCでいったん様子を見る
・作業中の傷病での死亡・高度後遺障害となるケース、自死などへの対応 
 本国送還の手配や補償など、万一の場合の対応を整備
・アシスタンス会社との法人契約・アシスタンスサービスの導入

●外国人従業員のために(私見)

 最後に、日本で働く外国人のために、ぜひ以下のことを考えていただきたい、と私見を列挙させていただきました。

・必ず病気や怪我の問題は起こる
・想定される問題・状況を考えプロアクティブに対応を検討
・言語対応をどうするか。医療費はどのようになるか
・外国人従業員の宗教・飲食など生活上の習慣やタブーの把握。(お祈りなど。食事も、忘年会などで食べれず、疎外感も受ける)
・在住しない短期滞在者で入院加療が長期になる場合や継続治療で職場復帰が困難な場合は本国病院へ適切な帰国転院移送も検討。高額な自費診療負担低減にも
・勤務先が知らず、従業員本人や家族が健康の問題を抱えていることも多い。本人の了解のうえ、 受診した病気があるか健康の不安や仕事・生活の不安があるか、定期的な面談やアンケートで自社外国人従業員の傷病と受診状況、ストレス状況とその課題を把握しておく
・国も違う中で受診の不便さや様々な不安を100%無くすことは困難。しかし傷病時や健康管理のために会社に可能な範囲の配慮をしていただいていることが、会社のリスクヘッジだけでなく、従業員の安心感やモチベーション、生産性にも良い効果があると思われる。
・縁あってその会社や日本の人びとと出会い一緒に仕事をすることになった。短期滞在や長期滞在、在住に関わらず、日本に来て日本の人々と仕事して良かったと良い思い出を持っていただきたい。


4、地域社会から考える多文化共生 ムスリムのケース(八王子)

 外国人労働者を受け入れるということは、ひとつの企業の職場だけの問題ではなく、地域の行政などの理解も必要になります。例えば、ムスリムの食物禁忌の問題で、寮での夕食が食べられないようでは困りますし、亡くなった際に土葬できなくては困ります。
 地域社会とともに多文化共生できてこそ、外国人労働者が働きやすい環境ができる言えることを忘れてはいけないと思います。

・食物禁忌の問題
サロモフさんは某精密機器メーカーのムスリムの従業員だが、寮の食事はハラル料理ではないので食べられない。本社の管理部門に相談すると「それはあなたの都合でしょ」といわれることもありました。同僚の日本人従業員に、ムスリムなので豚肉を食べられないことを話すと、「豚肉じゃないと思って食べればいいじゃん」と言われることもありました。

・土葬文化の問題(「現世⇒審判の日⇒来世」が「原因と結果」の関係)
https://ohaka-sagashi.net/news/doso/
 (土葬ができる地域は、山梨県や岐阜県、茨城県、宮城県、栃木県、鳥取県、高知県、北海などの一部の地域)



5、Uターン・Jターン・Oターンから考えるダイバーシティー経営(多文化共生)

 地方出身者が東京や大阪や名古屋などの都会で働き、その後生まれ育った故郷で働く「Uターン」、地方出身者が都会で就職し、その後生まれ育った故郷とは異なる地方で働く「Jターン」、Uターン後、地方に馴染めず都会に戻る「Oターン」など、私たち日本人が日本の中で実践しているこれらの方法が、これからはグローバルで行われるようになります。
 以下のセブンイレブンの例は、日本で働いた外国人労働者には次のキャリアパスとしてアメリカで働く道筋を示した例ですが、高いモチベーションを持った外国人労働者であればあるほど、キャリアパスが明確である方が能力を発揮します。
 単に外国人労働者を労働力として受け入れる、という発想だけでなく、彼らに次のキャリアの道筋を示してあげることが、彼らの能力を活かすポイントになるのではないでしょうか。

 「民間では注目すべき動きがある。セブン&アイHDが、セブン‐イレブンで働く約3万7000の外国人店員に対して、生活やキャリアを支援すると21年7月に発表したことだ。これはアメリカ法人が、コンビニ併設型ガソリンスタンド『スピードウェイ』を買収したことに関係している。約3900の店舗があるから、日本からコンビニ経験者の外国人を斡旋すれば、お互いにメリットがある。"使い捨て"にしない優れたアイデアだ。」
https://president.jp/articles/-/48641 より



6、デウシルメの人事システムに学ぶ(オスマン帝国成長の源泉は人事システムにある)

 オスマン帝国の歴史は日本の歴史にあてはめると、鎌倉時代から大正時代に相当(鎌倉時代、室町時代、戦国時代、江戸時代、明治時代、大正時代)するもので、600年にも及ぶものです(13世紀末~1922年滅亡)。
 人類の歴史上オスマン帝国が長期に支配領域(キリスト教徒―ギリシア正教、アルメニア教会派やユダヤ教徒などの非ムスリムと共存しつつ)を拡大し、継続できたノウハウはどこにあるのでしょうか、またそれは、日本のグローバル経営に役立つのでしょうか。

 オスマン帝国には、常に優秀な人材のみを吸収し、能力と業績だけによって昇進を許すシステムがありました。そのシステムは「デウシルメ」と呼ばれていました。
 デウシルメはメフメト1世、ムラト2世の時代に定着したようですが、オスマン帝国の支配エリート層が信仰するイスラームではなく、キリスト教徒の農村(バルカン、アナトリア地方)から眉目秀麗、身体頑健な少年を選び、トルコの農村に住ませ、トルコ語とトルコ的生活様式を学ばせました。そして、さらなる選別により宮廷に入り、スルタン(リーダー)に仕え、その後宮廷を出て州総督などの要職に就く者、あるいは最終的にスルタンの片腕である宰相や大宰相にまで出世する者など、常に優秀な人材を吸収し、能力や業績のみによって昇進を許すことは日常茶飯事でした。
 宮廷に入らなかったそれに次ぐ水準のものは、常備騎兵軍団に、残りのものはスルタン(リーダー)直属の常備歩兵軍隊であるイェニチェリ軍団員となりました。

 イスラム法では、いかなる権力者もムスリム自由人を裁判なしで処刑したり、財産の没収をすることができません。したがって、ムスリムより、非ムスリムをスルタン(リーダー)の近くに配備することで、「羊飼いも大臣になる昇進システムを持つオスマン帝国」と当時コンペティターであったハプスFブルク帝国に恐れられていたのです。

 このデウシルメというシステムはスルタン(リーダー)を中心に強力な中央集権制度(ガバナンス)を構築し、優秀な人材を適所に配備することができました。
 そして、これらのデウシルメで獲得した人材はムスリムでないため、ムスリム部族(地縁・血縁)などの外戚が国政につけいる隙を与えず、外からのムスリムから切り離された人材であったこともオスマン帝国が長く続いた理由のひとつです。

【参考】ムスリム社会にはいくつかのイスラム法による制約があり、それをオスマン帝国はデウシルメという非ムスリムを適所に適材を配備するシステムで長所に変容させた、ということを理解していただけたと思いますが、さらに思考を日本にズームすると、ムスリム社会のイスラム法の制約は日本における労働基準法における制約に似ている、と気づかれたのではないでしょうか。日本の労度基準法では人を解雇するのは非常に難しく、外資系の企業においても、日本に会社がある限り、日本法に準拠しているので簡単に従業員を解雇できません。

 さて、話を現代に戻します。Googleの人材獲得システムにアクイハイヤー(Acqui-Hire)というシステムがあります。これは英語の買収(Acquisition)と雇用(Hire)を掛け合わせた造語で、買収による人材獲得を意味し、大企業が優秀なエンジニアや開発チームを獲得するために、そうした人材が所属するベンチャー企業をまるごと買収する手法を指します。
 アクイハイヤーはシリコンバレーのエコシステムのひとつです。
 当たり前ですが、ベンチャーキャピタルから出資を受けて起業した起業家のすべてが成功する(巨額なリータンを得る)訳ではありません。マーケティングがうまく行かなかったり、マネタイズが見えなかったり、成長が鈍化したり、タイミングが悪かったり、成功するのは10に1つ、あるいは1,000に1つであるのがスタートアップの宿命です。
 では、資金が枯渇したスタートアップはどのようにExitすればいいのでしょうか。
 その答えの一つがアクイハイヤーなのです。
 資金が枯渇したから能力がない訳ではありません。逆に、貴重な経験を積んだ人材とも言えます。そして、多くのスタートアップは野心的で情熱あふれる起業家とエンジニアなどで構成されています。このようなスタートアップのチームをまるごと買収して雇い入れてしまうことで、従来の企業カルチャーからは生まれてこなかった新しいタイプの人材獲得が可能となり、買収する企業にとっては、慢性的人材不足の解消につながります。なおかつ、シリコンバレーという地域からすると、スタートアップのセーフティーネットとしても機能している訳です。

 このアクイハイヤーシステムはオスマン帝国のデウシルメと同様に、異質で優秀な人材を外部から調達し、彼らにキャリアパスを示し、能力を思いっきり発揮してもらうシステムです。これは前述のセブンイレブンの外国人労働者の採用システムと同じく、企業の成長に直結します。


 【第12回勉強会】では、「外国人従業員の傷病と受診についての課題」をテーマにしましたが、外国労働者を今後のグローバルビジネスのレジリエンスを高める原動力だ、と捉えることが極めて重要であることを結論としたいと思いますが、やはりそれには、日本で働いていただく外国人労働者が安心して健康で働いてもらうことが必要条件になります。
 今回の発表にあったように、大都市圏以外ではどうしても外国人労働者の受け入れがスムーズに行える医療機関が限られてきます。
インターナショナルSOSジャパンの営業に日本国内の地域をご相談いただければ、その地域で外国人労働者を受け入れてくれる医療機関を探し、紹介できるように努力し、会員企業の皆様それぞれのニードにできうる限り対応させていただくことをお伝えし、第12回の勉強会を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。

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