Blog on Duty of Care 海外における企業の安全配慮義務

【第13回勉強会】海外での日本人健康診断の注意事項と外国人採用のバックグランドチェック

COVID-19の感染拡大により未曽有の事態の幕開けとなった2020年をきっかけに、インターナショナルSOSでは会員企業様同士のコミュニケーションを目的として、定期的に勉強会を開催しております。

今回の第13回勉強会(2021年11月25日開催)は、「海外での日本人健康診断の注意事項と外国人採用のバックグランドチェック」と題し、COVID-19影響下で思うように移動ができない日本人海外赴任者の健康診断をどう行うかの問題と、今後グローバル企業にとり、避けて通れない外国人従業員の採用に関わるバックグランドチェックを、薬物検査の必要性の議論とともに考察してみたいと思います。

 まずは、グローバルアシスタンスネットワーク(GAN)パートナーシップディベロップメントマネージャーである稲垣潔から「海外での日本人健康診断の注意事項」をお話しさせていただきます。


1、 海外での日本人健康診断の注意事項

●COVID-19パンデミック(2020年)からの傾向

 COVID-19影響下に突入してからの日本人海外赴任者の健康診断の傾向は以下のように変化してきました。

・海外赴任者・帯同家族の健康診断
一般的には一時帰国時や現地(滞在国内か近隣周辺国)で毎年受診。
・COVID-19影響下で問い合わせ・紹介依頼の増加
赴任先国内・滞在都市内での受診先紹介希望。背景に、健康状態把握を含む健康管理への意識、渡航の制限。

●海外赴任者の健康診断

・日本の労働安全衛生法に基づき年一度の定期健康診断受診が義務付け。
・主に一般健診、定期健診と呼ばれているもので、健康状態の把握が目的。検査内容は「身体計測」「血液検査」「胸部X線」「尿検査」など基本的なものが中心。
・生活習慣病の予防・早期発見を目的に40~74歳の人を対象に実施する「特定健康診査(特定健診、メタボ健診)。人間ドックパッケージ。
・海外に勤務の方々も年齢により一般健診やドックを一時帰国時や可能な場合は海外で受診。

●海外の健康診断事情

(1)海外の健康診断事情

 日本国内の医療機関で受ける健康診断と、海外で受けることができる健康診断には以下の違いがあります。

・国内で検査項目や基準値など標準が定められているパッケージ化された一般健診や人間ドックは日本独特。米国など自己責任として健康管理は個人に委ねる傾向。
・先進国か新興国か途上国かの違いではなく、欧米先進国でも一般健康診断(定期健診)相当のベーシックな項目のパッケージが普通。これに超音波や内視鏡などをオプションで追加。
・健診専門施設や院内の健診部門で、Executive Healthのような名称のコースに企業経営者・管理職層などの病気の早期発見を目的としたパッケージがあるが、日本の人間ドックとは内容が異なる(項目も少ない)。
・鉱山、海洋、交通機関など業種ごとの標準での就業適性検査。

(2)検査項目や基準値、結果の違い

・消化管検査での胃透視(バリウム)や眼底・眼圧など日本の健診特有。海外日系クリニックや日系に特化したサービスを扱う医療機関の一部でのみ対応。腹部超音波は一般的。バリウムは無く上部内視鏡(胃カメラ)をベーシックなパッケージにオプションで追加も。国地域によって検査自体の感染リスク。
・健診結果が英語・現地語(日系クリニックなどで日本語結果表)。
・基準値の問題。基準値が異なる。日本国内のA、B、Cのような判定がなく、個々の検査数値のみ記載。
・結果に基づいた健康指導が受けられない。日本国内のスタンダードを理解している日本人医師が直接日本語での問診や、説明・指導できるところが望ましい。

(3)健診を扱う施設

・新興国・途上国でも首都や大都市の一部で、外国人向けの健康診断を扱う外資系病院やクリニック、JCI取得の国際病院が存在する。日本のドックに近い内容の健診はさらに限定される。
・在住日本人の多い都市の日系クリニックや国際病院の日本人部門で日本人対象にドック相当の内容を提供しているところも。一か所で完結せず、一部検査を別の医療機関で受診も多い。日系クリニックでもバリウムに代え内視鏡が多い。

●健診パッケージの例

 ここからは各都市でのパッケージ化されている健診項目などの例をいくつかご紹介します。

(1)ニューヨーク (企業管理職向け健診センター)

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(2)メキシコ・グアナファト州 (日系クリニック)

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(3)ロサンゼルス (日系クリニック)

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(4)メルボルン (現地クリニック 日本人サービス部門)

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(5)香港(国際病院グループ 日本人サービス部門)

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(6)デュッセルドルフ(日本人クリニック)

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(7)シンガポール(日系クリニック)

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(8)バングラデシュ(日系JV病院)

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●インターナショナルSOSジャパンとして取り組んでいること

 インターナショナルSOSジャパンとして取り組んでいることは、日本人海外赴任者の健康診断のニーズ把握、健診可能な施設のリサーチ・選定・提携などです。

・日頃より日系顧客のニーズを把握し、日本人向け(少なくとも日本語での受診、日本語での健診結果、検査項目は血液検査・尿検査の一般健診相当内容に加えバリウムまたは内視鏡、超音波・心電図、便潜血、の可否)可能な各国日系クリニックなどをリサーチし品質・信頼性のチェック、提携。便潜血も日本のような検査キットがない場合が多い。
・日本式に近い健康診断サービスが受けられるのは現地にそれだけの日系マーケットがある地域のみ。
・東アジア・東南アジア・米国・欧州一部主要都市の日系施設を中心に選択肢がある。他に豪州、中南米の一部都市日本語対応クリニックで一般健診相当程度。
・日系ビジネスの変化に伴い対応地域も変わってきている。進出傾向をよく把握し、その地の渡航・滞在形態特性によるニーズ(家族帯同など。婦人科・小児)も考え現地の日本人向き医療機関を調査しアプローチ。

●健康管理のために健康診断利用(健康管理の参考情報として利用)

・海外各地の医療機関の全てで同一に、検査項目や判定基準を揃えるのは無理。検査方法の違いや判定基準の違い、検査精度からの誤差は出る。
・統一した基準・パッケージで行われている日本国内のように個々の項目の結果から正確に判断したり健康指導したりは難しい。ただ、血液検査や尿検査での推移・傾向、画像の所見の有無などで個々の赴任者の全般的な全身状態・傾向の把握をしていただく有効な参考情報として利用。

●稲垣の私見

 最後に稲垣の私見として。海外渡航先で、現地の気候など地域特性に加え、赴任形態や業務特性、居住形態、生活習慣により健康状態に変化があります。慢性疾患ある方は悪化リスクが見られます。海外でCOVID-19に感染し重症化した方で高リスクの方が派遣されているケースがありました。
 出発前から渡航先国により必要な渡航ワクチンに加え赴任前健診で健康状態の把握や要観察の方の把握が大切です。
変化する現地状況のなか、海外赴任者の個々の健康管理、健康リスク管理のため、今後も、各地域での健診対応日系医療機関ネットワークの構築に努めていきたいと思います。


2、 外国人採用のバックグランドチェック

後半の「外国人採用のバックグランドチェック」に話を移したいと思います。ここからは営業の田中よりお話しさせていただきます。
まず、なぜ今回このテーマを選んだかと申しますと、ご存知のように前半の講師の稲垣はグローバルアシスタンスネットワーク(GAN:ギャン)という組織で、日本人海外赴任者のための医療機関のネットワーク構築を行うのと同時に、日本国内で外資系企業の外国人従業員が受診できる医療機関のネットワークも構築しています。

【参考】【第8回勉強会】本当にその病院で良いですか? 〜渡航先での安全・適切な受診と健康支援〜
    https://www.internationalsos.co.jp/blog/2021/06/8.html


 そこで、某グローバルIT企業から、日本人従業員(外資系企業のNational Stuff)の薬物検査ができる医療機関の調査紹介依頼があったのです。つまり、日本企業が日本式の健康診断を海外で求めるのと同じように、外資系グローバル企業では、日本にいる日本人従業員に薬物検査というグローバルでは当たり前のことを求めているのです。
 これは象徴的な出来事で、例えば【第12回勉強会】で解説したような、アクイハイヤー(米国IT企業の巨額買収)などが盛んに行われている現在、日本人と外国人を区別して「人事の仕組み」を展開していくことは、徐々に難しくなって行くのではないかと考えられます。

【参考】【第12回勉強会】外国人従業員の傷病と受診についての課題
    https://www.internationalsos.co.jp/blog/2021/11/12.html
このアクイハイヤーシステムはオスマン帝国のデウシルメと同様に、異質で優秀な人材を外部から調達し、彼らにキャリアパスを示し、能力を思いっきり発揮してもらうシステムです。

●ドメスティックルールとグローバルビジネス

 海外現地法人で外国人を採用し、日本に赴任させる場合の健康診断をどうするのか、直接雇用が原則の特定技能人材の健康診断はどうするのか、そもそも採用の際に薬物検査は行うのか、それだけでなくバックグランドチェックを行うのかなどなど、日本人を採用し雇用するときには考えてこなかった問題が続々と表出してきます。
 ちなみに、薬物検査に関して、厚生労働省は以下の見解を持っています。

「使用者は、労働者に対するアルコール検査及び薬物検査については、原則として、特別な職業上の必要性があって、本人の明確な同意を得て行う場合を除き、行ってはならない。」

 あるいは、薬物問題が多発するフィリピンでは以下の法律があります。

「10名以上の労働者を雇用している企業には、薬物乱用の防止・管理プログラムを策定し導入することが義務付けられている(フィリピン労働雇用省令第53-03号)」

 また、大麻が合法なアメリカの州で現地採用し、日本に海外赴任した場合、法的にどうすれば良いのでしょうか。就業規則明文化するだけで良いのでしょうか。ドメスティックルールだけで運用することができない問題を、グローバルビジネスの発展とともに解決していく必要があるのではないでしょうか。

●リフェレンスチェックとバックグランドチェック

 リフェレンスチェックとは、過去に一緒に働いていた人物にコンタクトを取り、勤務態度や周囲から見た人柄などを確認することで、バックグランドチェックとは、経歴詐称の有無、自社に不利益を被る人物でないかどうかの確認するネガティブスクリーニングです。

●各社のバックグランドチェック、義務化しているイギリス

 GAFAなどの外資系グローバルIT企業では、バックグランドチェックを行うのは常識的に行われていますので、ご参考までに、解説サイトを列挙します。

・日本マイクロソフト(Microsoft 就職前スクリーニング)
https://docs.microsoft.com/ja-jp/compliance/assurance/assurance-pre-employment-screening


・SAPジャパン(First Advantage)
https://assets.cdn.sap.com/sapcom/docs/2020/08/00bf0d66-a97d-0010-87a3-c30de2ffd8ff.pdf


・Amazonジャパン
https://www.amazon.jobs/jp/privacy_page?region_id=region_jp&language_id=language_jp


 また、採用時のバックグラウンドチェックが義務付けられているイギリスでは、以下のように世界中の国で犯歴チェックが可能かどうかをリサーチしその結果をまとめています。
(日本や近隣の台湾・中国・韓国、その他、アジア地域に関してもそろっている)


・Criminal records check for overseas applicants
https://www.gov.uk/government/publications/criminal-records-checks-for-overseas-applicants


●イスラエルでのバックグランドチェックの例から考える


 私自身がイスラエルでのオープンイノベーションにおいて経験した例を2つほどご紹介し、バックグランドチェックの実際のニードをお伝えしたいと思います。
イスラエルのオープンイノベーションには、企業と手を組む他に、大学などの研究機関と連携する方法があります。

テクニオン工科大学
ワイツマン研究所
ヘブライ大学
テルアビブ大学
ベングリオン大学

これらの研究機関は世界的に有名ですが、研究成果をベースに会社が設立され大学のインキュベーション施設にオフィスがあったり、政府のチーフサイエンティストオフィス(OCS)が支援していたり、民間のベンチャーキャピタルが出資したり、とシードがニードと出会いビジネス化されていることが多くあります。
 オープンイノベーションをどの段階に求めるかによりますが、もっともアーリーステージである論文の段階で評価し、それに投資をする方法や、すでにグローバルにビジネス展開しているものと連携する方法などがあると思います。

 上記の5つの研究機関のどことは書きませんが、ある研究室でコンピュータ言語分野の面白いテクノロジーを見つけました。それはCOBOLなどの手続き型の言語をC++などのオブジェクト指向言語に完全コンバートするものでした。当時は2000年問題が世界的にニードが高く、それに対応するためにたくさんのエンジニアを必要としていた時代で、欧米で人手を大量に投入できるインドでのオフショア開発のニードが高まりました。逆にイスラエル人は大量に人手がかかる場合は、人手がかからない方法を創造しようとします。

 面白いテクノロジーなのでプロトタイピングの段階から関わる検討をしてみました。このテクノロジーを開発したのは、ジーニアス(Genius)と評判のコンピュータサイエンスの教授でした。国立の研究所の教授でジーニアスの開発したユニークなテクノロジーなので、信用しやすく魅力に感じると思いますが、どうも私の中で引っかかるものがあり、自分が信頼できるイスラエル人の友人たちに彼のことを尋ねてみました。

 すると、彼の周辺には頭脳を利用したい人がいるようで、研究投資の一部はイタリアのマフィアに流れているかも知れない、という情報を大学時代の彼の同級生からキャッチしました。世界中に散らばるユダヤ人のネットワークは日本人には想像がつかないことがあります。しかし、イスラエルのいいところは狭い国土に800万人(25%はアラブ系)が暮らし、国民皆兵制であるためヒューマンネットワークが密で濃く、バックグランドチェックは信頼できる人脈ネットワークが構築されていれば容易だということです。イタリア云々の真偽のほどは確認することができませんでしたが、結果的にこの研究に手を出すのは辞めました。

 この例は、バックグランドチェックから投資を行わなかった例ですが、逆にバックグランドチェックを行うことなく、以下のように失敗した例もあります。

 私が以前勤務していた企業で、販売契約したソフトウェアもロシアからアリヤ(イスラエルへのユダヤ系移民をアリヤと呼ぶ)したエンジニアが日本語化していました。最初に契約したソフトウェアのテスト段階(QA)に入ったある日、担当していたエンジニアが自宅で殺害されてしまったのです。当時はクラウドもなく、ソースコードの管理ツールもなく、最終のQA段階でソースコードを集約したノートPCを持ち込んで作業をしていた矢先のことでした。日本側ではすでに発売のアナウンスも行っていたのですが、警察にノートPCは没収されてしまい発売を延期せざるを得なくなりました。

 この例では、ロシアからのアリヤが日本語担当のエンジニアで、取引先ということもあり、バックグランドチェックなどは行っておらず、ロシアからのアリヤ独特のバックグランドを考慮に入れていなかった失敗です。

 ここでお伝えしたかったことは、形だけのバックグランドチェックはそれを専門にしている会社を使えば可能ですが、上記の2つの例のように、ビジネスのキーになる人材、あるいは社内外役員など、経営にインパクトのある人材は、自らの責任で、しっかりとバックグランドチェックを行うようにした方が良い、ということです。他人任せでは見落とすことがあります。

●三人のレンガ職人

 最後にイソップ寓話「三人のレンガ職人」の話で締めくくりたいと思います。

レンガを積んでいる人に「あなたは何をしているんですか?」と聞いた。

1. 一人目はこう答えた
  見ればわかるだろ、レンガを積んでいるんだよ。
2. 二人目はこう答えた
  レンガを積んで壁を作っているんだよ。
  この仕事のおかげで俺は家族を養っていけるんだ。
3. 三人目はこう答えた
  レンガを積んで、後世に残る"大聖堂"を造っているんだ。
  自分は救済のための仕事をしているんだよ。

 インターナショナルSOSは、海外で働く従業員の方々の健康と安全をサポートするのが仕事ですが、それはユーザーの皆様のグローバルビジネスの発展があってのことです。したがって今回は、一人目のレンガ職人のように、単に健康と安全のことだけを考えているだけではなく、三人目のレンガ職人のスタンスで、バックグランドチェックのお話しをさせていただきましたが、弊社ではバックグランドチェックのサービスを行っている訳ではありません。その旨ご了承いただければと存じます。
 そして、この【第13回勉強会】が、ドメスティックルールとグローバルビジネスをアジャストしていく議論のきっかけになっていただければ幸いです。
 どうもありがとうございました。  インターナショナルSOS田中拝



【参考】過去の勉強会アーカイブ
  https://www.internationalsos.co.jp/blog/cat20/


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