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【専門家が世界を歩く】海外医療と安全の現地観察ノート Vol.1|タイ・バンコク編(前編)

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海外赴任や海外駐在に役立つ、現地の医療・セキュリティ事情を専門家がお届けするシリーズ企画。

企業・団体様の医療・セキュリティ・トラベルリスクを予防~対応~回復までサポートするインターナショナルSOSの専門家が、現地での実体験を交えてレポートします。

第1弾となる今回は、タイ・バンコクの現地の「交通手段」や「治安状況」について、弊社セキュリティ・コンサルタントが専門的な視点からお伝えします。

こちらの記事は、前編・後編2本立ての前編です。

いつもの記事とは趣向を変え、滞在記のような形で現地の様子をお届けします。ぜひインターナショナルSOSの専門家とともに「現地を歩く」感覚でご覧いただければ幸いです。

1. タイに見る日系企業の海外展開・海外進出の現状

タイのビジネス街

タイに行って参りました。インターナショナルSOSのバンコクオフィスが企画した、現地日系企業の皆様を対象とするイベントで、スピーカーとして参加するための渡航でした。

イベントに先立ち、弊社シンガポール本社に出張していたこともあり、イベントの数日前にバンコク入りすることとなりました。

1994年に開設したインターナショナルSOSのバンコクオフィスは、医療・健康支援、セキュリティ支援の拠点として機能しています。タイ国内外への緊急搬送(チャーター機・ヘリ)や主要病院のヘリ着陸権も確保している他、現在インドシナ地域やバングラデシュ、中国南部からのお問い合わせにも対応しています。

バンコクオフィスはBTSと呼ばれるバンコクの主要エリアを巡る高架鉄道のプルンチット(Pholen Chit)駅から、南に徒歩5分ほどの市中心部にあります。付近には日本、米国、豪州などの大使館や、ルンピニー公園があります。

インターナショナルSOS-タイ-バンコクオフィス

私はオフィス至近のホテルに滞在しました。滞在中、ホテルから徒歩や公共交通機関などで簡単にアクセスできるショッピングモールや観光地、その他ナナエリア(ナナ駅周辺)、パッポン通り及びタニヤ通りといった夜の繁華街を散策してきました。

ご存じのとおり、タイは日本人に人気の高い観光地であり、また日系企業の進出数は5,856社(2021年3月JETRO調査)にも上ります。

外務省が発表した2024年10月時点での 海外在留邦人数調査統計 によると、タイの在留邦人数は70,421人で、米国、オーストラリア、中国、カナダに次ぐ第5位となっており、日本人にとって大変馴染みの深い国であると言えます。

実際に、私がセキュリティ・コンサルタントとして接した日本の企業様の中にも、タイへの出張や駐在の経験を持つ方は驚くほど多く、かつそうした方々から聞く滞在時の印象は好意的なものが多いと感じています。

そんなタイについて、慎重(臆病かつ心配性とも言いますが)なセキュリティ・コンサルタントの目にはどう映るのか、私が実際に見て回り、感じたことを、インターナショナルSOSのアナリストによる分析内容も交えてご紹介します。

いわゆる「手軽な海外旅行先」として知られるタイを訪れる際に、気を付けるべきことがわかる内容となっていると思います。最後までお付き合いいただければ幸いです。

2. タイ・バンコクの交通手段・交通事情とセキュリティ|出張・駐在時の注意点①

タイ・バンコクの交通機関

バンコクでは、高架を走るモノレールのような電車(BTS, Bangkok Mass Transit System / 別名:スカイトレイン)と、地下鉄(MRT, Mass Rapid Train)、バス、タクシーといった一般的な乗り物から、トゥクトゥクと呼ばれる三輪タクシー、ソンテウと呼ばれる乗り合いタクシー、そしてバイクタクシーなど、日本では馴染みのない乗り物まであります。

私は電車(BTS)のほか、地下鉄(MRT)やタクシーを利用しました。

2-1. タイ・バンコクの電車・地下鉄のセキュリティ(治安や安全)状況

タイ・バンコクのBTS鉄道

タイ国政府観光庁によると、電車(BTS)は1999年、地下鉄(MRT)は2004年にそれぞれ開通しています。

時刻表は無いものの、朝6時~深夜0時までの間、電車(BTS)は3~8分、地下鉄(MRT)は5~10分間隔で運行しており、その利便性の高さから地元住民だけでなく、観光客など多くの人に利用されているようです。

総じて設備は新しく、プラットホームには防犯カメラや転落防止扉が設置されているなど安全対策もされており、車輛内は比較的明るく整然としていました。

私が乗車したのは日曜日の日中と、平日の夜でした。いずれの時間もそれなりに混雑していましたが、他の乗客と肩が触れ合うほどではありませんでした。

ただ、インターナショナルSOSのバンコクオフィスの同僚によると、平日の朝夕の通勤時間帯ともなると、スーツケースなどの大きな荷物を持って乗るのをためらうほどの混雑具合となり、ピークの時間帯ではスリへの警戒が一層必要になるとのことでした。

いずれにせよ、これらの公共交通機関は最低限の安全対策をおこなうことで安心して利用することが可能であることが確認できました。 

2-2.タイ・バンコクのタクシーのセキュリティ(治安や安全)状況

タイ・バンコクのタクシー

次にタクシーです。私は主に空港とバンコク市内の往復、またバンコク市内から郊外に足を延ばした際に利用しました。いずれの場合もタイで広く普及している配車アプリを利用しました。

配車アプリは、通常のタクシーとは異なり、アプリを用いて近くに居るドライバーを評価や車種などの情報をもとに選んで呼ぶことができ、また事前に料金や所要時間の目安が分かり、支払いもアプリでキャッシュレス決済ができます。

どの国のどんな配車アプリでも、基本的にはタクシーだけでなく一般人の自家用車も登録することができます。

タイでは、タクシーが配車アプリに登録をしているケースが多いようで、私が利用した際もタクシーが迎えに来ました。

配車アプリを通じて配車する場合には、タクシーであっても料金メーターを作動させず、予約する際にアプリ内で示された運賃を降車時に支払います。

街でタクシーを拾おうとすると英語を話せない運転手が多く、特に観光地や繁華街周辺などで待機しているタクシーや、街中にいるタクシーを利用すると、ぼったくりの被害に遭う恐れもあります。

配車アプリを利用すると、基本的には会話する必要がありません。目的地や料金も事前にアプリを通じて決められるため、便利であるだけでなく、ぼったくりの被害を軽減するためにも有用であると感じました。

ただ、先に紹介したように、バンコクにはトゥクトゥクやソンテウ、バイクタクシーといった他の選択肢もあり、交渉次第ではタクシーより安価に利用できる場合が多いようです。

2-3.タイ・バンコクのトゥクトゥクのセキュリティ(治安や安全)状況

タイ・バンコクのトゥクトゥク

トゥクトゥクは東南アジアでよく見られる三輪タクシーで、短距離移動に使われる小型の乗り物です。

オープンカーのような感覚で、東南アジアならではの雰囲気を味わうことが出来るとあって特に観光客に人気があるようです。

しかし、インターナショナルSOSではビジネス旅行者にトゥクトゥクなどの利用は控えることを推奨しています。

トゥクトゥクは観光客に人気が高い一方で、観光客のみが利用する乗り物であるとの認識が広がっています。通常の車と比べて脆弱性が高く、観光客を目当てとしたひったくりの被害に遭う恐れがあるからです。

多くの場合、トゥクトゥクは交通量の多い道路を縫うように走行し、乗客はオープンエアーの後部座席で振り落とされないよう車体の一部に掴まっている必要があります。バイクなどで近づくひったくり犯は、そのような乗客からカバンやスマートフォンをひったくります。

私が通りを歩いていた際も、後部座席の欧米系の観光客を喜ばせようと前輪を浮かせたウィリー走行をするトゥクトゥクを見かけましたが、後部座席の乗客は顔を引きつらせて必死にしがみ付いていました。

そのようなパフォーマンス中にポケットからスマートフォンが落ちようものなら二度と見つかることはないでしょう。

2-4.タイ・バンコクのバイクタクシーのセキュリティ(治安や安全)状況

タイ・バンコクのバイクタクシー

バイクタクシーについても言及しておかなければなりません。

世界保健機関(WHO, World Health Organization)の 推計 によると、タイにおける2021年の交通事故死者数は18,218人と、同年中3,304人であった日本の数値と比較しても格段に多いのが実情です。またその中の多くは、バイクが絡んだものであると一部で指摘されています。

実際に、ウインカーを出しながら左折動作に入っているバスの左内側のわずかな隙間にバイクタクシーが滑り込み、無理に追い抜こうとしている場面を目の当たりにしました。

内輪差に巻き込まれて大惨事になるパターンでしたが、幸い後部座席の女性が運転手のヘルメットを強烈に叩いて必死に静止したため、バイクは急停止して事なきを得ることができました。このような場面はバンコクでは決して珍しいものではないようです。

後日その光景を説明したバンコクオフィスの同僚からは「It’s Not uncommon(珍しいことではないよ)」と冷めた反応が寄せられました。

現地日本企業では、従業員に対しバイクタクシーの利用を禁止している場合がほとんどだと認識しています。

ただ、慢性的な渋滞が深刻なバンコクにおいて、地元住民が普段の足として当たり前のように利用している光景を見たり、大切な商談があるのに渋滞でタクシーが一向に進まなかったりした場合、ついついバイクタクシーを使いたくなる気持ちが湧いてくることも理解できます。

「会社からは禁止されているから自己責任を承知で利用する」つもりでも、実際に事故に巻き込まれるとご自身で全ての責任を負うことは出来ませんし、最悪の場合、命を失う結果に繋がりかねません。

ビジネスの目的が自らの命をリスクに晒す価値があるのかということを意識し、日ごろから軽率な判断をしないよう心がける必要があるかもしれません。

3.タイ・バンコクの観光地で注意したいリスク|出張・駐在時の注意点②

タイ・バンコクのセキュリティ‐ショッピングモール

特にバンコクやパタヤ、プーケット島やサムイ島に代表される観光地でのスリ、置き引きといった軽犯罪は、タイで特に注意を払うべきリスクであると言えます。

そこで私は今回、バンコクで観光客に人気があるショッピングモールや中華街などを巡ってきましたが、その中でもショッピングモールについてご紹介します。

3-1.タイのショッピングモールとセキュリティ状況

タイ・バンコク滞在記_赴任・駐在のリスク管理マップ-モール

私が訪れたのは、滞在先のホテルから徒歩圏内にあるサイアム・パラゴン、セントラル・ワールドの2つのショッピングモールです。

どちらも電車(BTS)の駅近くにあるためアクセスが非常に良く、休日・平日問わず常に多くの人で賑わっています。

まず最初に日本との違いとして気づいたのが、出入口に配置されている警備員です。

これらのショッピングモールを含め、バンコク中心部には複数のショッピングセンターがありますが、その多くで出入口に警備員を配置しており、中にはゲート式の金属探知機を設置している施設もあります。

ただ私が訪問したバンコクの2つのモールでは、基本的に入場者のほとんどはチェックを受けることなく素通りし、時折大きなカバンを抱えた人が声を掛けられ中身をチェックされている程度でした。

実はこの2カ月ほど前に、南部ソンクラー県にある同系列のショッピングモールを訪れたのですが、その際にはすべての入場車両(バイク含む)が身分証明書の提示(運転手のみ)を求められた上で車内外のチェックを受けていました。

徒歩での入場者も金属探知機と警備員によるセキュリティ・チェックを受けるなど、厳しいセキュリティ・チェックがおこなわれていた様子を目の当たりにしておりましたので、バンコクでの警備の甘さに少々驚きました。

背景として、バンコクでは他のエリアと比較して人の往来も多く、入場者ひとり一人にかけられる時間に限りがあるという事情があろうかと思います。

もしくは深南部と言われる地域に隣接している、ソンクラー県での警戒レベルがとりわけ高いのかもしれません。

タイ・バンコク滞在記_赴任・駐在のリスク管理マップ-深南部

深南部とは、イスラム教徒が多数を占めるナラティワート県、ヤラー県及びパッタニー県の全域と、ソンクラー県の南部地域(ジャナ、テーパー、ナターウィ及びサバヨーイ)のエリアを指します。

タイからの分離独立を掲げる武装勢力によるとみられる、襲撃・爆発事件などが長らく続いており、ナラティワート県、ヤラ―県及びパッタニ―県には現在も政府による非常事態宣言が発令されています。

(つづきは後編へ)