海外赴任や海外駐在に役立つ、現地の医療・セキュリティ事情を専門家がお届けするシリーズ企画。
企業・団体様の医療・セキュリティ・トラベルリスクを予防~対応~回復までサポートするインターナショナルSOSの専門家が、現地での実体験を交えてレポートします。
第1弾となる今回は、タイ・バンコクの現地の「交通手段」や「治安状況」について、弊社セキュリティ・コンサルタントが専門的な視点からお伝えします。
こちらの記事は、前編・後編2本立ての後編です。
いつもの記事とは趣向を変え、滞在記のような形で現地の様子をお届けします。ぜひインターナショナルSOSの専門家とともに「現地を歩く」感覚でご覧いただければ幸いです。
1.タイ・バンコクのショッピングモールで注意すべきリスク|海外赴任・駐在時の注意点③
前編ではショッピングモールに入る前の警備態勢まで見てきましたが、後編ではいよいよモールの中を見ていきます。
モール内はさながら日本の百貨店・ショッピングモールといった様子で、日本でも馴染みのある飲食店や衣料ブランドなども多数出店していました。
訪れたモールの1つ、セントラル・ワールドでは、日本食レストランや日本の雑貨を販売する店ばかりを集めた一画が設けられているなど、現地の方だけではなく日本人にとっても大変魅力的な場所であると感じました。
1-1.タイ・バンコクのフードコートや休憩所でのスリのリスク
モール内は多くの人で賑わっており、人気店らしき店舗の周辺では通り抜けが難しいほど人で溢れているところもありました。
より多くの利用客を収容するためか、フードコートではテーブル同士の距離が近く、また通路脇には随所にベンチが置かれ、足を休めようとする人が入れ替わり立ち代わりの状態でした。
このような場所では特にスリや置き引きに対する警戒が必要です。足元や隣のスペースに手荷物を置いたままスマートフォンの画面に集中する人や、居眠りする人がちらほら居ました。
ショッピングを存分に楽しんで疲れてしまう気持ちもよく分かりますが、犯人は狙いやすい人を狙うものです。
あからさまに警戒心が低い人、また疲れ切って集中力が途切れた人などは犯罪のターゲットにされる傾向にありますので、休憩する場合であっても警戒心まで解いてしまわないよう心掛ける必要があります。
衆人監視の中で泥棒は起きないだろうと思う方もいるかもしれませんが、周囲の人はどれが誰の荷物であるかに興味はないものです。
どのようなシチュエーションであっても自身の携行品には常に注意を払うことが求められます。
1-2. タイ・バンコクの商業施設におけるテロリズムの危機管理
人が多く集まる場所で念頭に置いておくべきことは他にもあります。
セントラル・ワールドからほど近いラチャプラソン交差点付近では、2015年に爆弾テロが発生して20人が亡くなり、120人以上が負傷する事件が発生しました。
また今回私が訪れたもう1つのモール、サイアム・パラゴンでは2023年10月に当時14歳の少年が拳銃を使った無差別殺傷事件を起こして外国人2名が犠牲となっています。
テロに関する話題で「ソフトターゲット」という言葉を聞きますが、軍事施設や政府機関など厳重に警備された場所が「ハードターゲット」であるのに対して、ソフトターゲットは「不特定多数が出入りし、警備が比較的手薄になりがちで攻撃されやすい標的」と定義されています。
テロリストにとっては接近しやすく、一度に大きな被害を出して強い衝撃を与えられるということですが、ショッピングモールなどは多くの人が集まる一方で、その中から悪意ある者を判別することは現実にはなかなか難しいのが実情だと思います。
そのため、特にソフトターゲットとして狙われる可能性があるショッピングモールなどの施設を訪れる際は滞在時間を必要最小限にする、また政治的な緊張が高まっている時期には訪問を控えるといった判断を心がける必要があります。
2025年2月にも、タイ政府がタイ国内で拘束していたウイグル人数十名を中国へ強制送還したことを受け、在タイ日本大使館はタイ国内でのテロの脅威が高まる可能性があるとして、在留邦人や旅行者に対し不測の事態への警戒を一斉に呼びかけました。
この背景には、2015年にラチャプラソン交差点付近で発生した爆弾テロがあります。犯行動機は未だ明らかになっていませんが、今回同様タイ政府がウイグル人を強制送還した後のタイミングで起きたテロ事件でした。
こうした経緯から、政府による強制送還措置がテロの動機となった可能性を指摘する報道もあり、今回の警戒勧告はそのリスクを踏まえた対応と考えられます。
2.タイ・バンコクの治安と夜間の外出リスク|出張・駐在時の注意点④
タイ・バンコクと言えば、夜間も賑わいを見せる観光都市として知られていますが、一部のエリアでは犯罪リスクが報告されています。
特に飲食店や娯楽施設が集まる地域では、昏睡強盗(睡眠薬を用いた犯行)や、飲酒に起因するトラブル、金銭目的の詐欺・窃盗が発生することもあり、過去には邦人が被害に遭った事例もあります。
夜間の外出では、こうした犯罪に巻き込まれないように特に注意が必要であると言えます。
2-1.タイ・バンコクの繁華街のリスク|パッポン通り
バンコクの繁華街(特にナイトライフ施設が集中するエリア)は、エリアごとに特徴があります。
例えばパッポン通り(Pat Pong)は多くの風俗店がある一方で、屋台やレストラン、土産物屋などが軒を連ねるナイトマーケットとなっており、飲食やショッピングを目的とした女性グループや家族連れも多く見られます。
ちょうど私が訪れた時も多くの観光客が露店で食事を楽しんでいたのですが、ヨーロッパからであろう子供連れの家族が路上に並べられたテーブルの一つで和気あいあいと食事を楽しむ脇で、男性が客引きに案内されてゴーゴーバーに消えていく姿も目の当たりにしました。
ちなみにゴーゴーバーに代表されるナイトクラブなどの客引きには、特定のお店に所属して店の前で街行く人々に声を掛ける者と、特定の店には所属せず通りを流しながら広い範囲で客を探し、紹介した店から紹介料を得る者の、2通りがいるそうです。
2-2.タイ・バンコクの繁華街のリスク|タニヤ通り
パッポン通りの近くにはタニヤ通り(Thaniya)があります。ここはパッポン通りと比較すると落ち着いた雰囲気で、飲食店や衣料品、スポーツ用品店などもあり、その多くで日本語を目にする機会が増えます。
たまたま声を掛けてきたタイ料理レストランの呼び込みの方に話を聞と、やはりこのエリアでは日本人の訪問が圧倒的に多く、次いで韓国人、中国人といった順番とのことでした。
またタニヤ通りでも、煌びやかな商売をしているとおぼしき人々の姿を多く目にしました。肌の露出が多い衣装に身を包んだ人々が、多い所で20人以上、少ない所でも10人ほどが店舗前に整然と並べられた椅子に座っていました。
前述したパッポン通りでは同様の光景を目にすることがなかったので、客引きの一人に話を聞くと、パッポンのゴーゴーバーとは営業形態が少々異なり、客が店舗前で同伴者を指名して店内で一緒にカラオケを楽しむシステムとのことでした。
カラオケ店の客引きは、入店料、飲み物代などが細かく記載された料金表を手に持っており、それを使ってタイのカラオケのシステムを丁寧に説明してくれました。
2-3.タイ・バンコクの繁華街のリスク|ナナエリア
次にナナエリア。パッポン通りやタニヤ通りでは観光目的の人が半数以上の印象でしたが、ナナエリアでは打って変わってナイトクラブやバーを目的に訪れた単独若しくは少人数の男性グループが多い印象でした。
大通りから路地に入ったナナエリアでは歩道が狭く、限られた歩道スペースのところどころで色鮮やかなドレスを着た人が立ち、さらにその人々を見て、時に立ち止まって交渉を試みているような人々の姿もちらほら見られます。
そのような歩道で人を避けながら進むと、ほどなくしてナナプラザと呼ばれるゴーゴーバーが多数入居する複合施設にたどり着きます。
ナナプラザは空から見るとコの字型の構造になっており、開口部となっている敷地への入口では屈強なセキュリティスタッフが訪問客のチェックをおこなっていました。
ナナエリアはとても国際色豊かな雰囲気なので、あらゆる地域からの観光客を意識して敢えて目立つように警戒しているのかもしれません。
いずれにせよパッポンやタニヤではセキュリティスタッフが前面に出て入場者に目を光らせる様子は確認できなかったので、こうした点からもナナエリアには他の繁華街とは一味違う独特の雰囲気があると感じた訳です。
2-4.タイ・バンコクの繁華街のリスク|料金トラブル、強盗、性犯罪、ひったくり
治安環境を確認することが訪問の目的であったため、それぞれのエリアにおける滞在時間は短く、またナイトクラブやバーの店内へ立ち入らなかったためか、幸いにも滞在期間を通じて私自身が危険を感じることはありませんでした。
しかしバンコクの繁華街(特にナイトライフ施設が集中するエリア)では、犯罪やトラブルが複数報告されています。
例えば、ゴーゴーバーやカラオケなどのナイトクラブでは、あらかじめ客引きなどに説明を受けた料金と、実際に請求された料金が全く異なるといったぼったくりなどの料金トラブルが発生しています。
ナイトクラブで知り合った人物や、バーで親しげに話しかけてきた人物などから飲み物に薬物などを混入され、その後金品を奪われる昏睡強盗にも注意が必要です。
その他、タイでは公然の事実として性産業が存在する一方で、公共の場や売春宿での売春が禁止されるなど厳しい法律があり、たびたび当局による取締りもおこなわれています。また、性的サービスを巡る衛生環境も決して十分とは言えません。
安易に関わると、自らを法的、経済的、社会的リスクのみならず健康リスクにもさらすことになりかねませんので絶対に手を出さないようにお願いいたします。
そしてネオン街を少し離れると急に周囲が暗くなる場合も多く、こうした場所ではバイクによるひったくりや強盗、性犯罪などの被害に遭う恐れが高まります。
夜の繫華街ではエキゾチックな雰囲気を見られる一方で、昼間帯と比較すると犯罪に巻き込まれるリスクが高まる傾向にあります。
日が暮れてからの一人歩きは避け、外出する際には明るい大通りや人通りの多いエリアのみを利用するようにして、近道だからと慣れない路地などは利用しないよう気を付ける必要があります。
3.まとめ| タイ・バンコクの海外赴任・駐在前に確認したい治安リスクと安全対策

これまで私がバンコクに滞在した際に見て感じたことを、滞在期間が限られていたため一部に絞りましたが、セキュリティコンサルタントの視点からご紹介してきました。
冒頭でもお伝えした通り、滞在期間を通じて私自身危険を感じることは一切ありませんでしたが、他の国・地域と同様に、目に見える景色だけでその治安を判断することは難しいと言えます。
事実、タイでは合法・違法を問わず国民の7人に一人が銃を持つと言われているほど銃が広がっており、そうした背景から些細な喧嘩が銃撃事件に発展するといった事件も少なくありません。
また薬物問題についても、大麻など一部麻薬は合法とされているものの流通や消費に関するルールが必ずしも守られていない実態があるなど社会的な問題を複数抱えています。
こうした問題は直ちに治安の悪化を招かなくとも、中長期的には何らかの影響を与える可能性もありますので、平素から治安環境に変化を与えうる動向等に関心を持つ必要があります。
インターナショナルSOSではタイを担当するセキュリティアナリストが政情や治安等を日々モニターしているほか、情報を選別・分析するなどして皆様に適切な情報提供をおこなえるように控えております。
特に現地でビジネスをおこなう方や、海外赴任・駐在予定のある方におかれましては、日ごろからタイの政情や治安に関する情報に是非とも興味を持っていただき、必要に応じてインターナショナルSOSのアシスタンスセンターにぜひお問い合せください。
インターナショナルSOSのアシスタンスセンターや、セキュリティ・コンサルタントから最新の情報を入手していただいた上で、安心して渡航・滞在されることをお勧めいたします。
最後に、今回のバンコク訪問を通じて、店を変えながら毎日パッタイを食べ歩いたこと、また多くの種類のフルーツを好きなだけ食べられたのが個人的にはとても良い思い出になりました。
ご覧いただきました皆様がもしタイに訪れる機会がございましたら、適切な予防策を講じられた上で、ぜひタイの料理や文化、歴史などを存分に堪能していただければと思います。
海外赴任者・駐在者の医療・セキュリティリスク対策は万全ですか?
インターナショナルSOSでは、タイ・バンコクをはじめ、世界中で出張・駐在・勤務される従業員のリスク管理を手厚くサポートいたします。
- 世界中90カ国以上1,200カ所の拠点から365日24時間対応
- 怪我や病気、安全リスク、渡航リスク等の予防~対応~回復までサポート
- 所属医師やセキュリティなど各種専門家が迅速に支援
- 緊急医療搬送、危機管理、国外避難など緊急時対応の経験も豊富
こうした疑問をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。